競馬は、そのスピード感と迫力で観る者に興奮と感動を与える華やかなスポーツです。応援してきた馬が勝利を飾る瞬間は、ファンにとってかけがえのない思い出となります。しかし、その舞台を降りた競走馬たちがどのような“その後”を歩んでいるのか、立ち止まって考える機会はまだ多くはありません。
本記事では、引退競走馬を取り巻く現状と課題を整理し、私たちファンができる具体的な支援のかたち、そしてその意義について考えていきます。
引退競走馬の現状──“その後”はどうなっているのか
日本では、毎年およそ6,000頭以上の競走馬が引退しています。引退後の進路としては、種牡馬や繁殖牝馬としての活動、乗馬クラブへの転用、功労馬としての余生を送るなどの道があります。
しかし、実際にはすべての馬がこのような安定した余生を送れるわけではありません。
とくに競走成績が振るわなかった馬や牡馬は、繁殖や乗馬としての需要が限られるため、多くの馬が行き先を見つけられず、やむを得ず命を絶たれるという現実があります。
日本の競走馬の多くは、引退後に殺処分されているのが現実です。受け入れ先が十分に整っておらず、経済的な理由から飼養継続が困難となり、「選択肢がない」という理由で命を絶たれるケースが多く見られます。
なぜ引退馬支援が必要なのか
引退競走馬を支援する最大の理由は、「命の尊厳」を守ることです。
競馬はエンターテインメントであり、大きな経済的価値を持つ産業でもありますが、その裏には、命への責任が伴っています。一頭の馬が走るためには、多くの人々の努力と想いが注がれています。そして、彼らの命は「使い捨て」にされてよいものではありません。
馬の寿命は20年以上と長く、引退後にも長期間にわたる飼養とケアが必要です。しかし、そのためのコストや人員、施設などの受け皿は依然として不足しており、経済的・構造的な問題が重くのしかかっています。
こうした課題に対応するためには、民間の努力に加え、社会全体としての関心と支援の輪を広げていくことが不可欠です。
支援のかたちは一つではない──多様な団体の取り組み
現在、日本国内では複数の団体が引退競走馬の支援活動に取り組んでいます。それぞれが異なる理念や方法を持ち、支援のかたちにも多様性があります。ここでは、代表的な取り組みの一部をご紹介します。
● ホースプロジェクト3S
地方自治体や企業との連携を通じて、地域ぐるみで引退馬の余生を支えるプロジェクト。馬を通じた地域交流、教育・福祉活動との連携も進められています。
● 認定NPO法人 引退馬協会(ナイスネイチャ・バースデードネーション)
引き取り手のない高齢馬など、支援が難しいケースにも積極的に対応。クラウドファンディングなどを活用した広範な支援体制を確立し、命をつなぐ活動を継続しています。
👉 [【引退馬支援】ナイスネイチャで話題!認定NPO法人 引退馬協会とは?]
● TCC 引退競走馬ファンクラブ(TCC Japan)
引退馬を複数人で支える「ファンクラブ型」の支援モデルを展開。実際に馬に会える見学制度や、定期的なレポート配信など、馬とファンの新しいつながり方を提示しています。
👉[【引退馬支援】TCC 引退競走馬ファンクラブって何?馬と一緒に歩む新しいカタチ]
● 一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare(TAW)
引退馬のセカンドキャリアや余生の機会拡充に向け、制度づくりや受け入れ体制の整備を進める専門団体。民間団体を支える裏方的な役割として、全国規模での調整や公的機関との連携にも注力しています。現場と行政をつなぐ「基盤づくりの中核」として、2024年に設立されました。
👉 [【引退馬支援】一般財団法人Thoroughbred Aftercare and Welfareとは?]
これらの団体はいずれも、引退した競走馬が穏やかな余生を過ごせるよう支援するために、それぞれの立場から実践的な取り組みを行っています。
また、ここで紹介した団体以外にも、全国には多くの熱意ある個人やグループが、独自の視点と方法で引退馬支援に取り組んでいます。
それぞれの活動は、馬と人との関係を深め、引退馬の命を未来へとつなぐ大切な役割を果たしています。
私たちにできる支援とは
引退馬支援というと、大きな金額を寄付しなければならないイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、支援の方法は決して一つではありません。
- 月額500円から始められる一口支援
- 支援団体が発行するグッズなどの購入
- SNSでの情報発信やキャンペーンの拡散
- ボランティア活動やイベントへの参加
- 見学会などを通じた支援馬との交流
こうした日常的な小さなアクションの積み重ねが、馬たちの未来を支える確かな力になります。
競馬ファンである私たちにとって、応援してきた馬を引退後も見守るという姿勢は、競馬という文化を深く理解するうえでも極めて重要です。
おわりに──引退馬支援を“文化”にするために
競走馬は、私たちに感動や興奮を与えてくれる存在であると同時に、一頭の生き物として、その命に対して責任を持つべき存在でもあります。
その馬たちが引退した後、どのような人生を歩むのか——それは、競馬に関わるすべての人々にとって無関係ではありません。
近年、引退馬支援の必要性について社会的な認識は少しずつ広がってきていますが、まだ十分とは言えません。
一部の団体や個人の尽力だけで支えきれる問題ではなく、私たち競馬ファン一人ひとりの理解と行動が求められています。
引退馬支援を「特別なこと」ではなく、競馬を楽しむうえでのごく自然な文化として根づかせていくこと。
それが、競走馬と共にあるこのスポーツをより持続可能なものにしていくための道ではないでしょうか。
引退した競走馬の未来を築く鍵は、私たち一人ひとりの関心と行動にあります。